翻訳処理速度って?
翻訳処理速度(特許:英⇔日)について考えてみたいと思います。
処理速度に関係する要因はいくつも存在し、互いに絡み合っていると思いますが、実感として、大きく分けて以下の4つに分かれるのではないでしょうか。
● 内容理解力
● 英語力
● ツール
● 仕事環境
内容理解力
まずは翻訳対象の原文の意味が分からなければどうにも始まりません。その理解に必要なのが、数学、物理、化学、生物等の基本的な知識・考え方や、国語や論理力をベースとした読解力でしょう。
それらを土台として、その先にあるのが、各専門分野の入り口である、機械、電気・電子、IT、通信、バイオ、メディカルといった、言うなれば、大学の学部名に相当するようなものがあり、さらにその先に、各翻訳者が得意分野としてアピールするであろう、半導体プロセスやら、5Gやら、人工知能やら、ドラックデリバリーシステムやらがあると思います。
そして、その専門分野もさまざまな分野が組み合わさったものも多く、得意分野を軸として、各分野の基本は満遍なく抑えておいた方が良いとうのが現状かと思います。
あとは、特許ならば、その独自の決まり事などでしょう。
英語力
翻訳対象の原文が理解できることが重要です。まずは、読み取るための文法・構文・語彙力等でしょうか。日英翻訳なら英語のライティング力が必要ですね。ただ、ライティングするにしても、日日翻訳する必要があるでしょうから、上記の内容理解力が前提になるでしょう。
そして、英語力がどの程度必要なのかといった問いの答えは、特許で言えば、日本語で書かれた特許が理解できることを前提として、英語で書かれた特許の文構造(文法・構文)が理解できる程度の力が最低限必要であると思います。そのため、TOEIC高得点の方が、トライアルの突破ができないというのは、前提条件である日本語の特許が読めないことに理由がありそうです。
あとは「翻訳の布石と定石 実務翻訳プロへの道」や「外国出願のための特許翻訳英文作成教本」のような本で翻訳技術を鍛えればよろしいかと。
ツール
CATツールの使用は、翻訳資産の再利用のため、もやは常識ではないでしょうか。「Trados」、「memoQ」、「Memusourse」が大半をしめていると思われます。
そして、機械翻訳ソフトを使っている方もいるでしょう。CATツールのように翻訳メモリを搭載したものもあり、特許で言えば「PAT-Transer」が有名かと思われます。訳抜け防止や入力の簡略化が期待できます。
あとは、紙の辞書だけでなく、電子辞書も必要でしょう。検索時間の短縮ですね。「Logophile」を使った串刺し検索や「LogoVista」を使っている方も多いのではないでしょうか。
さらに、最近ではAI翻訳も挙げられるでしょう。現在、「T-400」、「みらい翻訳」、「DeepL」の翻訳精度が、他を圧倒しています。これも機械翻訳ソフトと同様かそれ以上に入力の簡略化が期待できます。注意点として、AI翻訳が生成した訳文を修正することになるので、その間違いを判別できるだけの力が必要になります。そのため、初心者等には扱いきれない部分が出てきます。一つの目安として、機械翻訳ソフトをある程度使いこなせれば、AI翻訳の修正も可能と思われます。
仕事環境
環境も重要です。あまり環境にお金を掛ける方が少ないようにも思えますが、1つ1つの効果が小さくとも、後に大きな差となって現れてしまいます。
例えば、パソコンは20万円前後のものが必要でしょう。特にTradosはある程度の性能がなければ快適に動作しません。パソコンのディスプレイは、27型以上の大きなものを選択すべきです。翻訳には各種ソフトを使用するため、同時表示できると操作性が向上します。さらに解像度によっては、目の疲れが大きく異なってきます。キーボード、マウスも重要です。手に負荷かかからないものを用意すべきです。キーボードであれば東プレの「REALFORCE」、マウスであれば「ローラーマウス」がよろしいかと。安い物を使い続けて、腱鞘炎になってしまっては、元も子もありません。そして、椅子です。大きな出費になると思いますが「コンテッサ」等の高級椅子を使うべきです。翻訳は長時間座り続けて仕事を行います。その辺の椅子と比較し、蓄積する疲労度が異なりますし、腰痛対策にもなります。
4つの組合せ?
翻訳処理速度は、これら4つの組合せで成り立っているのではないかとの実感が、これまでの翻訳経験から得られました。この中で最も大きなウェイトを占めるのが、「内容理解力」です。内容が理解できなければ、用語の選定ができません。文の掛かりが分かりません。AI翻訳に至っては、見た目上、読める文章が生成されるため、間違いに気づくことができません。これは英語力で解決できるものではありません。理解が全てです。まだ翻訳経験が豊富とは言えませんが、身に染みて感じています。
独断と偏見ですが、とりあえず特許翻訳に限って言えば、
翻訳処理速度(能力) = 内容理解力 × ( 英語力 × ツール + 翻訳環境 )
と表すことができるのではないかと。
英語力がツールによって数%から数十%増強されて(ものによっては数倍?)、それに翻訳環境が加算される。しかし、内容理解力がないと水の泡。。。そんな感覚でしょうか。自身も含め、原文をしっかりと理解出来る地頭を作らないといけないですね。
AI翻訳と内容理解力
ところで、AI翻訳ですが、興味深い動画があります。
この動画で言われていることと、私のT-400の使用感が概ね合っていると感じたのですが、AI翻訳による翻訳処理速度は、良くて2~3割増しになります。「その程度か・・・」と思われた方が多いかもしれませんね。そして、注意しなければならないのは、AI翻訳における間違いの大部分は、「用語の間違い」と「内容的な間違い」(文の係り受けの間違い等だと思います)という事です。さらに、この動画で言われていることですが、翻訳の初心者等は「内容的な間違い」をすることが最も多いため、AI翻訳の修正時には「用語の間違い」は修正出来るが、「内容的な間違い」は修正できないだとか。つまり、内容が理解出来なければ、翻訳初心者も同然で、さらにAI翻訳は扱いきれないという事です(自分自身の課題でもあります)。
ということは、「内容理解力」をもった翻訳者が、AIによって生成された訳文を修正し、さらに、その修正した対訳をAIが学習すれば、、、、恐ろしいですね。先ほど、翻訳処理速度が良くて2~3割増しと言いましたが、修正した対訳を学習する前の話です。もし、学習すればどこまで処理速度が上がるのでしょうか。まだ、未検証ですが、恐ろしくもあり、楽しみでもあります。
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